VIRGIN DUCATI | デスモセディチRR ファーストインプレ 特集記事&最新情報

特集

2006年型のモトGPワークスマシンGP06をベースにした高純度レプリカモデル、デスモセディチRRは、ドゥカティ市販モデルの最高峰であり、世界最高の量産車と言っても過言ではない特別な存在だ。そして、このモデルの若きオーナーは湯山さん。オン・オフ、さらにはモタードモデルまで乗りこなし、サーキット走行を含む豊富な経験を持つライダーだ。

今回の特集では、その箱開け式の様子や湯山さんのデスモセディチRRファーストインプレッションをお届けしよう。

デスモセディチRRの特異性

パーツ、生産体制、価格… 全てが異例のスペシャルモデル

本題に入る前に、このデスモセディチRRがいかに特殊でスペシャルなマシンであるかをおさらいしておこう。

 

2003年のモトGP開幕戦、鈴鹿。ドゥカティのモトGPワークスマシン「デスモセディチ」は、デビュー戦にもかかわらず見事3位表彰台獲得という華々しい成績を残し、ファンの度肝を抜いた。その後のシーズンも快進撃を続けたデスモセディチは1回の優勝を含む数回の表彰台を獲得。市場ではいつしか「デスモセディチのレプリカが発売されるのでは」という、期待と妄想が入り混じった噂が流れるようになっていた。ところが、翌2004年のWDW(ワールド・ドゥカティ・ウィーク)が開催されたミサノサーキットで、ドゥカティの首脳陣は「デスモセディチRR」の生産計画を突如公式にアナウンスしたのである。こうして、公の場でその存在が確認されたデスモセディチRRは、約4年の開発期間を経て限定予約発売にこぎつけ、日本でも2008年から順次幸福なオーナーの手元に渡り始めている。

 

モトGPマシンのフルレプリカということで、デスモセディチRRは全てが異例尽くめである。エンジン形式は、ドゥカティ市販モデル初の水冷L型4気筒4バルブデスモドロミックでギアドリブンカムシャフトを採用。排気量は2006年当時のモトGPレギュレーションに合致した989ccとなっており、欧州仕様は200hp/13,800rpm(日本仕様:61hp/5,500rpm)の大パワーと、11.8kgm/10,500rpm(日本仕様:未発表)の大トルクを発揮する。フレームは鋼管ハイブリッドトレリスフレームとカーボンファイバー製シートフレームのコンビネーションで、足回りはオーリンズ製FG353Pフルアジャスタブル倒立フォークと同じくオーリンズ製モノショックの組み合わせ。そのほかにも、330mmセミフローティングダブルディスク、ブレンボ製4ピストンラジアルマウントモノブロックキャリパー、リアのサイズが200/55R16というブリヂストン製専用タイヤなど、空前絶後のスペックと装備がズラリと並ぶ。

 

デスモセディチRRは、その生産体制自体もスペシャルである。本国イタリアのファクトリーでは、このモデルを最高の品質で組み上げるために一般の生産ラインから選抜した優秀な人材で専用生産ラインを構成。日産僅か5~8台というペースで丁寧に生産したという。デスモセディチRRは、世界最高のパーツと生産環境から生み出されたまさに「宝石」。価格もそれに相応しく日本円で866万2500円と極めて高価だ。

モトGPワークスマシンそのままと言っても良いほど、GP06と酷似したフォルムを持つデスモセディチRR。

モトGPワークスマシンそのままと言っても良いほど、GP06と酷似したフォルムを持つデスモセディチRR。

チタンバルブなどのスペシャルパーツを専用ラインで組んだ世界最高の量産エンジンを搭載している。

極太のスイングアームに装着されるリアタイヤは200/55R16というサイズで、ブリヂストンの専用品だ。

イグニッションキーやスイッチ類を除けば、モトGPマシンとなんら変わらない佇まいのコクピット。

カーボン製シートカウルに完全に格納された斬新なマフラー。市販バージョンでは入念な熱対策も施される。

オーリンズ製FG353Pフルアジャスタブル倒立フォークをはじめとして絢爛豪華な足回りとなっている。

エンジン後端にスイングアームピボットを設ける構造。車体剛性の向上と良好なレスポンスに貢献する。

詳細

 【1】チタンバルブなどのスペシャルパーツを専用ラインで組んだ世界最高の量産エンジンを搭載している。

 【2】イグニッションキーやスイッチ類を除けば、モトGPマシンとなんら変わらない佇まいのコクピット。

 【3】オーリンズ製FG353Pフルアジャスタブル倒立フォークをはじめとして絢爛豪華な足回りとなっている。

 【4】極太のスイングアームに装着されるリアタイヤは200/55R16というサイズで、ブリヂストンの専用品だ。

 【5】カーボン製シートカウルに完全に格納された斬新なマフラー。市販バージョンでは入念な熱対策も施される。

 【6】エンジン後端にスイングアームピボットを設ける構造。車体剛性の向上と良好なレスポンスに貢献する。

スペシャルマシンのスペシャルな箱開け式

若きオーナーを祝福する、仲間とショップスタッフたち

ここからは、11月2日の様子をお届けしよう。ドゥカティ横浜では、若きオーナー湯山さんを祝福するために、デスモセディチRRの箱開けをサプライズとして演出。湯山さんのお仲間たちには「ツーリングの企画ミーティング」と称して集まってもらい、実はそれが湯山さんの「デスモセディチRRの購入発表兼箱開け式」という趣向だ。何も知らされていない仲間たちは、午前11時ごろから最上階の会議室に集まり始めたが、飾り付けられたいつもと違う雰囲気にびっくり。すると突然、スピーカーから映画「アルマゲドン」の主題歌、エアロ・スミスの"I Don’t Wanna Miss A Thing"が流れ、リフトからデスモセディチRRが登場。湯山さんも会場に現れ、ドゥカティ横浜の柿沢店長から購入発表が行われた。

 

最初は皆きょとんとしていたが、事態が理解できると「ホントに買ったの~」「おめでとう!」と祝福の嵐。そのままデスモセディチRRは会場に運び込まれ、メカニック2名のてきぱきとした作業によって、エンジン初始動の準備が整えられた。そしていよいよオーナー自らの手によって鍵がキーシリンダーに挿入され、セルモーターのスイッチが押されると、会場には今までに聞いたこともないような独特のデスモセディチRRの咆哮が響き渡った。その後は全員でパーティー会場へと移動し、再びオーナー湯山さんに対する熱い祝福が続いた。

 

そして、11月の22日、整備を終えたデスモセディチRRは無事湯山さんの手元に納車されたという。果たして、公道に解き放たれたモトGPフルレプリカの乗り味とは、どのようなものなのだろうか。

テラスには赤いカーペットとバラの花びら。デスモセディチとともに登場した湯山さんを祝福。

テラスには赤いカーペットとバラの花びら。デスモセディチとともに登場した湯山さんを祝福。

オーナーの湯山さん。会場を屋内に移し、自ら購入の挨拶を行うと再び祝福の嵐が巻き起こった。

準備が整い、再び外装を組みつけられる。ワークスマシンと同様の凝縮感がこのモデルの素性を物語る。

早速2人のメカニックによって外装が取り外され、始動の準備が進められるデスモセディチRR。

オーナー自らエンジンを始動、そしてブリッピング。従来のドゥカティとはまったく違う咆哮だ。

取り外されたタンクや外装。やはり、一般的な市販車とは次元の違う圧倒的なクォリティー。

詳細

詳細

 【1】オーナーの湯山さん。会場を屋内に移し、自ら購入の挨拶を行うと再び祝福の嵐が巻き起こった。

 【2】早速2人のメカニックによって外装が取り外され、始動の準備が進められるデスモセディチRR。

 【3】取り外されたタンクや外装。やはり、一般的な市販車とは次元の違う圧倒的なクォリティー。

 【4】準備が整い、再び外装を組みつけられる。ワークスマシンと同様の凝縮感がこのモデルの素性を物語る。

 【5】オーナー自らエンジンを始動、そしてブリッピング。従来のドゥカティとはまったく違う咆哮だ。

 【6】箱開け式の後は記念パーティが催された。オーナーを囲んでデスモセディチ談義が盛り上がった様子。

特集
このページでは、デスモセディチRRの乗り味をオーナーの湯山さんのインタビューという形でご紹介しよう。
果たして、空前絶後のロードゴーイングレーサー、デスモセディチRRの真実とは…

公道でも従順なモトGPフルレプリカ

最高峰のモトGPフルレプリカは公道でも従順なモンスターマシンだ

欧州にデリバリーされるデスモセディチRR、いわゆるフルパワー仕様は200馬力を超えるパフォーマンスを発揮するモンスターマシンだ。対して、日本仕様は61馬力と、その出力を大幅に絞られている。しかし、車体の基本構成や足回り、ポジションなどは欧州仕様とまったく同一。超高荷重に対応するハードなセッティングも含めて、日本仕様もモンスターであることに変わりはない。果たして、公道に解き放たれたモトGPフルレプリカはどのような走りを披露してくれたのであろうか。それでは、オーナー湯山さんのファーストインプレッションをお届けしよう。以下は、VIRGIN DUCATI.com 編集部(以下、VD)が湯山さんにインタビューしたときの内容である。

11月2日の箱開けから待つこと3週間。11月23日に無事納車されたデスモセディチRR。

11月2日の箱開けから待つこと3週間。11月23日に無事納車されたデスモセディチRR。

インタビューVD●まず最初に湯山さんのドゥカティ歴を教えていただきたいのですが。

湯山 ●ドゥカティは父が好きで、かれこれ6年ぐらい748に乗っているのですが、私はデスモセディチRRが初めてのドゥカティなんです(笑)。父の影響からか、ドゥカティの情報はよく耳にしていて、それでデスモセディチRRのことを知りました。ドゥカティ以外なら、ホンダのRVFやCRM、モタードを始めてからは、ハスクバーナSM450も乗りました。ハスクバーナは今でも持っていて富士のショートコースによく走りに行きます。その他にもいろいろ乗りましたね。

 

VD●なるほど。ドゥカティであれば他の選択肢もいろいろとあったと思いますが、どういった理由からデスモセディチRRを選ばれたのでしょうか?

湯山 ●実は、受注が開始されたときはそれほど欲しいとは思いませんでした。そのうち廉価版が発売されるという噂もありましたし…。でも、デスモセディチ RRを取り上げた数ある雑誌の中で1誌だけ、とてもカッコ良く撮れている写真が1枚掲載されていて、それを見て急にどうしても欲しくなってしまったのです。ところが、調べてみると、今買わないともう買えないモデルということがわかり、さらに為替レートの関係で、受注期間の途中で値上げされることも発表されましたよね。それで、値上げ実施の前日、ドゥカティ横浜さんにギリギリでオーダーを入れてしまったというところです(笑)。

 

VD●カッコいい一枚の写真がきっかけということですね。さて、そのデスモセディチRRが納車されたわけですが、やはりサーキットに持ち込むのでしょうか?

湯山 ●ハスクバーナだとツーリングに使い難いので、デスモセディチRRはツーリングやワインディング走行に使おうかと思っているんです。

 

VD●それでは、デスモセディチRRも一般的なスーパースポーツのような使い方をしようと思っているわけですね。伺ったところでは、納車日の23日に早速箱根に行ったそうですが、乗り味はいかがでしたか?

湯山 ●初クラッチミートはさすがにちょっと緊張しましたが、L型4気筒エンジンだったためか、とても乗りやかったんですよ。それに、意外だったのですが、クラッチが非常に軽い。クラッチが軽いことで評判のモンスター696の倍ぐらい軽いという印象です。だから、レバーを握りっぱなしでも疲れない。渋滞に巻き込まれてもまったく問題ありませんでした。

 

VD●それはとても意外ですね。その他の部分はいかがでしたか?例えば排気音とか燃費とか。

湯山 ●日本仕様のマフラーですから、どちらかというと聞こえてくるのは排気音ではなくてエンジンのメカニカルノイズですね。乾式クラッチの音とかではなく、カムとかギアなどが作動している音です。ガシャガシャと盛大で、「本当にオイル入ってるの?」っていう感じ(笑)。燃費ですか? リッター8kmですからハスクと変わらないぐらいです。ガスも相当濃い感じで、先日もドゥカティ横浜さんの駐車場でカブってしまいました。やはり調整が相当難しいエンジンであることは間違いないようです。日本仕様マフラーの抜けの悪さも原因みたいですよ。

 

VD●ツーリングにも使うとのことですが、ポジションはいかがでしたか?

湯山 ●ハンドルは1098よりも近いんですが、シート後半の幅がとても広いので、私としては良いとは言えないです。ニーグリップしようとすると後ろがスカスカで、後ろに荷重しようとするとニーグリップできない。身長180センチの友人が跨ったのですが、それぐらいの体格の人なら丁度良いみたいです。私が乗るならシートストッパーやタンクパッドが必需品かもしれません。

 

VD●お話を伺っていると、ポジションやエンジンの調整はともかくとして、スポーツバイクの経験があるライダーなら極々普通に乗れそうな感じがしてきました。

湯山 ●そうですよ。まったく問題なく乗れます。発進などは父の748よりもずっと簡単なぐらい。ドゥカティの空冷2気筒シリーズよりも乗りやすいんじゃないですか。単純に運転のしやすさという意味で言えば、ドゥカティのラインナップ中ではモンスター並だと思います。乾式クラッチも特に気を遣いませんし、軽いですから取り回しは1098よりもラクです。

 

インタビューVD●それではいよいよ核心部分ですが、エンジンのフィーリングは如何でしたか?

湯山 ●慣らし中なので6000回転までしか回せないのですが、一緒にツーリングした996SPSなどと比較すると、発熱量が凄い。それと、時速100kmで走行した場合の回転数が、同じギアでもデスモセディチRRの方が格段に高いようです。996が3200回転だとすると、こちらは4000回転という感じですね。エンジンを回して乗る設計だということを実感しました。その一方で、トルクは下から「そこそこ」ではなく、「しっかり」とあるし、無理して高いギアから加速しても無理なくついてくる。走り出せば本当に乗りやすいエンジンです。

 

VD●エンジンも意外な面が多いですね。ところで、最高峰のオーリンズで固められた足回りの感触はどうですか?

湯山 ●あれはやはり固いですね~。足回りの慣らしという意味もあって、今は前後ともにいわゆる「全抜き」にしてもらっています。もちろんプリロードも最弱ですが、それでも固い。当然ですが、サーキットの高速コーナーを走るときの設定ですね。オーリンズなので乗り心地は悪くはないですが・・・。レンチを持ち歩いて少しずつセッティングを詰めていこうと思っています。

 

VD●ハンドリングとかブレーキはどうでしょう?

湯山 ●ハンドリングはかなりクイックです。凄くよく曲がります。フロントブレーキは、レバーに触れただけでも利くし、意外にもリアブレーキが強力。ドゥカティはリアブレーキをあまり利かさない設定のものが多いでようですが、デスモセディチRRは、ペダルに足を載せただけで十分利きます。今はブレーキも慣らし中ということもあって意識的にペダルを踏みますが、私はもともとリアブレーキをよく使うので、この設定は好みです。

 

VD●デスモセディチの一番よかったところは?

湯山 ●やはり駐車場に停めた時に、特別なバイクが佇んでいるという、あの雰囲気ですね。高い買い物でしたが所有感が満たされていることは確かです。

 

VD●では逆に、「チョットここは…」という点は?

湯山 ●それは間違いなく、サイドスタンドですね。跨った状態だと出せません(笑)。位置の問題もあるのですが、カウルの中に完全に格納されてしまう上に、ステップの下にあるので、身長165センチの私だとちょっと厳しいですね。降りてからスタンドを掛けなくてはならないのでヒヤヒヤします。ここだけは本当に苦労しています。シートストッパーやサイドスタンドもそうなのですが、このデスモセディチRRは、自分に合わせてモディファイしていこうと思ってます。実は、カウルもFRPでもう一組作ってもらおうと思っているのですが、なかなか受けてくれる業者さんもない、というのがちょっとした悩みですね(笑)。

最後に湯山さんは、約30分にわたってオーナーしか知りえない日本の公道を走るデスモセディチRRの乗り味をつまびらかに話してくれた。日本のバイクメーカーも、シーズンオフにはメディア関係者を対象としたワークスマシン試乗会などを実施しており、モトGPマシンのような競技車輌が意外にも乗りやすいという記事を目にすることも多い。

しかし、プロのライダーやテスターではない一般のライダーが、モトGPマシンとほぼ同等の性能をもつバイクに乗った時にどのように感じるのか、という疑問に対して、湯山さんのインタビューはとても興味深い内容となった。恐らく、湯山さんのデスモセディチRRもフルパワー仕様でクローズドコースを走る日も近いことだろう。その時はさらに興味深い話が聞けるのでないだろうか。

取材協力:ドゥカティ横浜