VIRGIN DUCATI | ドゥカティ モンスター1100EVO 試乗インプレッション

モンスター1100 EVOの画像
DUCATI Monster 1100 EVO

ドゥカティ モンスター1100EVO

  • 掲載日/2011年09月01日【試乗インプレッション】
  • 取材協力/Ducati Japan  取材・文・写真/友野 龍二

過激なスペックを手に入れながらも乗りやすさと安全性を向上させた
The ultimate Monster (究極のモンスター)

2008年に登場した 696 から第3世代に突入したモンスターシリーズは2009年に 1100/1100S が加わり、2010年には 796 が投入されるなど、モンスターファミリーのバリエーションを拡充し完成に至った…と思ったのも束の間、登場からまだ2年しか経過していない1100シリーズを刷新してきたのだ。

従来の1100シリーズは今日でも充分にフラッグシップと呼べる完成度を誇っているが、DUCATI は2012年モデルとして 1100EVO の投入を決定した。今回のモデルチェンジではエンジンを始めとする各部が新設計となるなど、その中身は大きな変貌を遂げている。“EVO” というネーミングの新たなモンスターは何が変わったのか? そしてその完成度は如何に?

試乗ではストップ&ゴーの多い市街地、エンジン回転数の変動が少なくクルーザー的な乗り方をする郊外、高回転を多用して積極的にマシンコントロールを行うワインディングに至るまで、2日間を費やしてじっくりと走り込んでみた。時間を掛けたからこそ知り得た内容も含め、その中身を解き明かす。

モンスター1100EVOの特徴

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ABS のみならず一部の水冷モデルに設定されていた DTC を採用しブラッシュアップ
伝統の技術と最新の電子デバイスを高い次元で融合させた次世代型モデルへと進化

まずは従来の 1100/1100S との違いを挙げてみよう。外観上ではエキパイの取り回しとサイレンサーの形状変更が大きな識別点となる。低重心化に貢献する右側2本出しサイレンサーは厳しい日本の規制をクリアさせるために本国仕様に比べ 10cm ほど延長されたが、それによって同一スペック(100HP)での国内登録を可能とした。

従来モデルから 5HP の引き上げは、今の技術であれば ECU のリセッティングのみで達成可能であろう。だが、デスモドゥエ・エボルツィオーネエンジンはピストンクラウンやシリンダーヘッドまで再設計されたのである。クランクケースはコストの掛かる真空ダイカストプロセスである Vacural 鋳造製法により製作され、大幅な軽量化を可能にしながら一定の肉厚を保ち、強度を上げている。オルタネーターカバーにはマグネシウムを採用し、848 スタイルのフライホイールが組み込まれたクランクシャフト、レアアースマグネットを採用したジェネレーターなど、軽量化に賭ける意気込みはハンパではない!

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これらの努力によって DTC など新たな電子デバイスが追加となったにもかかわらず、従来(M1100 ABS付)の 171kg に対し、169kg と 2kg の軽量化に成功している。僅か2kg と思うなかれ、低重心化されたマフラーとの相乗効果で運動性は飛躍的に向上したのである。

新設計となった燃焼室はバルブリフト量を吸気側で5%、排気側で4%アップさせることに成功し、さらには吸気側のエアフローをより効率の良い形状として混合気の充填効率が高められた。そして 10.7:1 から 11.3:1 へと 0.6 も高められた圧縮比と軽量フライホイールの相乗効果により、Lツイン独特の弾けるパルス感を伴ったままレブリミットまで淀みなく吹け上がるストレスフリーなエンジンを完成させた。

このエンジンから生み出される強大なパワーを受け止め、ロスなく路面に伝達させるクラッチは1993年に登場した900シリーズから今日まで不変であった乾式ではなく、大排気量エンジン用に専用設計された湿式へと変更された。このクラッチについては後に詳細を説明させていただくが、スリッパー機能、プログレッシブ・セルフサーボメカニズム、クッシュドライブ・ダンパーメカニズムを有する多機能クラッチであり、1100EVO の乗り味に大きく関与する。

モンスター1100EVOの試乗インプレッション

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安心して気軽に操れる優しさを身につけた 1100EVO もモンスターらしさは失われず
チャレンジスピリット溢れるライダーが求めるならばそれ応える獰猛さも持っている

第3世代のモンスターシリーズの中で 696 と 796 は同一ベクトル上に位置し、レブリミットまでフラットに続く出力特性は気軽に楽しめる優しさを有していた。しかし 1100モデルは別物であり、常に適度な緊張感を持って接する必要があった。実用回転となる 3,500rpm 前後から僅かなアクセル開度でも強烈なトラクションが掛かり、ややピーキーなその特性を楽しむには程々のスキルが要求され、その車名が表すとおりまさにモンスターな一面が前面に押し出されていた。だが、1100EVO では実用回転域のトルクを抑えた代わりにピークとなる 6,000rpm 以降の落ち込みを緩やかにし、7,500rpm で発揮される 100HP との繋がりをシームレスなものとしたことによって、伸びやかな回転フィールを楽しめるエンジンとなった。さらには ABS と DTC (ドゥカティトラクションコントロール)がセットになった DSP (ドゥカティセーフティパック)が標準装備されたことによって、696&796 の延長線上に位置するユーザーフレンドリーなキャラクターを手に入れたのである。

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DTC の介入レベルは4段階あり、ホイールスピン(前後ホイールの回転差)を検知するとまずは点火タイミングを遅らせ、それでもホイールスピンが収束しない場合は燃料噴射量が絞られる仕組みとなっている。そこで少々イジワルでラフなスロットル操作を行ってみたのだが、介入度合いの高いレベル4では滑ったと感じるより早く制御が働いてしまった。そこでレベル1を試してみたところ、転倒リスクの少ない僅かなスライドまでは許容し、車体を揺らしながらもパワーデリバリーは続いてくれた。レベル1では短い時間ではあるが多少のウィリーも許容してくれるので、大排気量車らしい豪快な走りも楽しめる。

ブレンボとボッシュ共同開発の ABS はフロントが “カッカッカッカ” と小刻みに作動し、リアは “カーカーカーカー” とフロントよりも作動間隔が広く瞬間的なスキール音を断続して発するタイプのものであった。この ABS の作動時にはレバー及びペダルに適度なキックバックが伝達されるので作動状況が掴みやすく、安心してフルブレーキを行える点は好印象なのだが、タイヤとサスペンションが高いレベルで仕事を行ってくれるため、出来の良い ABS ではあるが、その性能を体感できる機会は少ないだろう。

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新たに採用された湿式クラッチは実に多機能であり、様々なシーンで恩恵にあずかれる。エンジンから伝達される駆動力を圧着力に変えるプログレッシブ・セルフサーボメカニズムはスプリングレートを落とすことが可能になるため操作が軽くなり、さらには発進時の繋がりも掴みやすい。またクッシュドライブ・ダンパーメカニズムが駆動ショックを緩和するため、アクセルの ON/OFF に伴う前後のピッチングモーションも抑えられている。これらの機能は長距離(長時間)ツーリングでは疲労低減に大きく貢献する。そしてスポーツライディングでの有効性が広く認識されているスリッパークラッチは、シフトダウンの際にアクセルを煽りエンジン回転数を同調させながらギアチェンジするのが苦手なライダーにも有効なアイテムとなる。

これらの技術によって動力性能と安全性という相反する要素を高い次元で両立させたのだ。乗りやすさを演出するために改良されたポイントは数多く存在するが、特に気に入ったものをを三つほど紹介する。

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一つ目はアップライトなポジションとなり、腕に掛かる負担を軽減するよう 20mm 高められたハンドルバーライザーである。1100モンスターでスポーツライディングを行う際に不可欠なフロント荷重を与えやすくするために設計されたこのポジションには 『疲れる』 という声も多かった。そこでハンドルが高められた訳だが、これによって起こり得るネガティブな部分はマルゾッキ製フルアジャスタブル・フロントフォークとピレリ製デイアブロ・ロッソⅡとの調和により見事に補われており、ハイペースでワインディングを駆け抜ける際でも必要充分なグリップ感が得られた。

二つ目は独立型へと変更されたフットペグブラケット(ステップ)である。それまでの一体型はライディング中に踵の内側に干渉するプレートが気になることが多く、スリムな車体を生かしたステップワークがスポイルされていた。今回独立したことによって踵、足首、ふくらはぎのすべてを使ってバランス良くバイクをホールドできるため一体感が高まり、ライディングに集中できるようになった。

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三つ目はレッドステッチのアクセントが加えられたシートである。従来のシートは少々柔らかすぎの傾向にあり、路面からのインフォメーションがタイヤとサスペンションを経由してライダーに届く際にその情報を曇らせてしまうことがあった。一見するだけでは違いの分からないこの新形状シートはウレタンの反発力が高められ、特に左右の角が程よい硬さになった。スポーツ走行時にお尻を左右に動かして重心移動する際などは実に具合が良く、動きやすさが格段に向上し、また路面状況を的確に伝えてくれる。それでいて硬すぎることはなく、他のスポーツモデルと比較すればまだ柔らかい傾向にあるのでツーリングにも充分対応する。

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以上のように扱いやすさが格段に増した 1100EVO だが、決して軟弱になった訳ではない。従来は 6,000rpm を超えた辺りからパワー曲線が穏やかになったのだが、このエンジンは最高出力を発生する 7,500rpm に到達するまで鋭い曲線を維持し続ける。ひとたび DTC を OFF にすれば軽量な車体を瞬時に蹴飛ばす強力なトルクと共にそのパワーが猛威を振るう。強烈な 100HP を自身のテクニックのみで制御する楽しさ(難しさ)もキッチリと残されており、洗練されたとは言ってもやはりモンスターはモンスター(脅威となる存在)なのであった。

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モンスターファミリーの新たなフラッグシップとして君臨することとなった 1100EVO の価格設定は数々の装備と改良が施されたにもかかわらず 139万円に留められた。オーリンズ製サスペンションを装備しない従来の 1100 が 150万円(ABS装着車)であったことを考慮すると、お得感いっぱいの1台である。

モンスター1100EVOの詳細写真

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すでに広く認識されている第3世代モンスターのフロントマスクに変更はないが、フロントフォークにはマルゾッキ製フルアジャスタブル倒立フォークが装着され、ホイールには ABS センサーが装備されている。
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シンプルで機能的なコクピット。テーパー状のアルミニウム製ハンドルや後方視界の良いミラー形状などに変更はない。フロントフォーク先端部にはレッドアルマイトに着色されたプリロードアジャスターが装備されアクセントになっている。
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20mm 高められたハンドルバーライザー。これによりアップライトなポジションとなり長距離(長時間)ライディングでの疲労は大きく軽減される。
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基本的にデザインの変更はないメーター周りだが、ABS ランプが備わった。DTC システムの設定レベルは液晶画面に表示され、DTC 作動時はオーバーレブリミッターとして機能しているふたつの警告等が点灯する。
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ダイレクトな操作感が得られるブレンボ製ラジアルマスターシリンダーはブレーキ及びクラッチに標準装備。
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MODE ボタンを操作することにより時刻、メンテナンススケジュール、油温、ABS の状態、DTC の設定など様々な機能を呼び出せる。
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トップブリッジ側ではマルゾッキ製フルアジャスタブル倒立フォークのプリロードとリバウンド調整が可能。
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形状や容量に変更はない燃料タンク。写真のダイヤモンドブラックにはセンター部分にフレームと同色のレーシンググレイストライプが入り、マットシャンパンゴールドのフロントフォークと共に迫力を醸している。
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レッドステッチが入り新形状となったシートはウレタンの反発力も見直され、コシのある適度な硬さが好印象。ディンプル加工された座面は滑りにくくホールド性が高い。夏場にはシートに触れる面の熱さを軽減する効果もある。
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ドゥカティパフォーマンス製のグラブレイルキットを装着可能としたアルミニウム製サブフレーム。シート下には残念ながら小物入れは存在しない。
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リアエンドデザインをより一層シャープに見せるよう形状変更されたリアフェンダーはウィンカーの取り付け位置も微妙に変わっている。またナンバー灯には LED を採用。右フロントカウル内側に設けられた小物入れは、上蓋がプッシュオープン式となり開閉が容易になっただけでなく、容量もわずかに拡大された (写真では iPhone5 を格納してある)。
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ツインスパークからシングルスパーク(1気筒1プラグ)へと変更されたエンジン。オルタネーターカバーは高価なマグネシウム製が奢られ、ジェネレーターアッセンブリーにはレアアースマグネットが採用されている。
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大排気量エンジン用に専用設計された湿式クラッチはスリッパー機能、プログレッシブ・セルフサーボメカニズム、クッシュドライブ・ダンパーメカニズムなど多くの機能を有する。
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エキゾーストパイプの取り回しは大きく変更され、エンジン右サイドを包み込むような露出の多い形状となった。
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1100EVO の特徴的な部分でもあるサイドマウント・ダブルエキゾースト(キャノンサイレンサー)は低重心化にも貢献している。日本国内の規制に適合させるため本国仕様より 10cm 延長されているが違和感はない。
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ダイヤモンドブラックの車体に組み合わされるフレームカラーはレーシンググレイ。その構造はドゥカティのアイデンティティの一つと言っても過言ではないスチールパイプトレリスフレーム。
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放熱性に優れる 320mm ダブルディスクは安定した制動力を約束してくれる。またディスクの中心部には ABS のセンサーが備わる。
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強力無比かつコントローラブルなブレンボ製4ポットキャリパーは強度の高いラジアルマウント形式を採用。レッドアルマイトのパーツはフロントフォークのコンプレッション調整用スクリュー。
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レッドのピンストライプが入る新設計の軽合金10本スポークホイールはバネ下重量の軽減とともに軽快なハンドリングにも貢献する。
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スポーティな印象を与え造形も美しいアルミニウム製の片持ち式スイングアームは高い剛性と軽量化を同時に達成するチル鋳造。
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それまでの一体型が廃止され独立型となったフットペグブラケットは見た目にもスタイリッシュ。以前のような踵部位への干渉もなく軽快なステップワークを行えるためスリムな車体を生かした機敏な走りが可能になる。
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高圧ダイキャスト、ブラック仕上げのパッセンジャー用フットペグハンガー。
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ザックス製アジャスタブルモノショックはプリロードとリバウンドの調整が可能。
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カラースキームはレッドとダイヤモンドブラックの2色。車体センターに配されたラインによってどちらも精悍な印象を受ける。

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