四半世紀の歴史を誇るスーパーミッドの最新作、パニガーレV2を試乗インプレッション
- 掲載日/2020年03月25日【試乗インプレッション】
- 取材協力:DUCATI JAPAN 取材・文/中村 友彦 写真/井上 演
新世代のV4に移行することなく
既存のV2をブラッシュアップ
近年のドゥカティのラインアップには、リッタースーパーバイクと基本設計を共有する“スーパーミッド”が並んでいる。その嚆矢となったのは、916の双生児として開発された1995年型748で、2003年には999がベースの749、2008年には1098の排気量縮小版となる848、2014/2016年には1199/1299パニガーレの技術を転用した899/959パニガーレが登場。この系譜を踏襲するなら、2020年のスーパーミッドは、2019年から発売が始まったパニガーレV4と同様のメカニズム、V4エンジン+アルミフロントフレームを採用しそうなものだが……。
車名から排気量の数字を外した新世代のスーパーミッドは、大幅なブラッシュアップを行いながらも、先代と同じV2エンジン+アルミモノコックフレームという構成を継承。その背景には、コスト抑制という事情があるのかもしれないが、どうやらドゥカティは、他メーカーとのパワーウォーズと無縁で、レースレギュレーションに縛られないスーパーバイクとして、V2エンジンにはまだまだ可能性が残されている、と考えているようだ。
パニガーレV2の特徴
V2エンジン+モノコックフレームは不変だが
外装と吸排気、電装系の大幅刷新を敢行
2020年型パニガーレV2で最初に目を引くのは、パニガーレV4に通じる構成になったレイヤードタイプのフェアリングとマフラーだろう。ただしこの2つの変更は、世界中で好評を得ているパニガーレV4のイメージを取り入れることだけが目的ではない。フェアリングに関しては、空力特性の改善に加えて、ヘッドライト下部のエアインテーク+ダクトの見直しで吸気効率が向上しているし、右2本出し→右1本のショートタイプに刷新されたマフラーは、運動性に影響を及ぼすマスの集中化に貢献。なおショートマフラーの排気口は、リアタイヤにぴったり寄り添う形状になっていて、これは先代の両支持式から片持ち式に変更したスイングアームの恩恵だ。
もっともそれら以上にパニガーレV2で重要な要素は、多種多様な電子制御の精度を高める機構として、スーパーミッドでは初となる慣性測定ユニット、6軸IMUを導入したことかもしれない。この機構の美点は外観からは判断できないが、コーナリングABSやトラクションコントロール、ウイリーコントロール、エンブレの制御など、ライダーをサポートする電子制御は、先代より格段に洗練されている。
さらに言うなら、クイックシフターがアップに加えてダウンにも対応する両方向型になったこと、3種が存在するライディングモードの中で、いまひとつ使い勝手が悪かったレインが、常用域での扱いやすさを重視したストリートに変更されたことも、先代とは異なるパニガーレV2ならではの特徴である。
実際にパニガーレV2を購入するとなったら、微妙なひっかかりを感じる人がいそうなのは、先代+13万7000円となった、225万円の価格だろう。パニガーレV4が270万8000円~という事実を考えれば、225万円は妥当と思えるけれど、パニガーレV2とキャラクターが少々カブるスーパースポーツ/Sは、166万9000~189万3000円で購入できるのだから。この事実をどう感じるかは人それぞれだが、新世代スーパーミッドの運動性能に絶対的な自信を持っているからこそ、ドゥカティはあえて、強気の価格設定をしたのだと思う。
パニガーレV2の試乗インプレッション
リッタースーパーバイクとは一線を画する
フレンドリーな特性と操る手応え
最初に大前提の話をしておくと、僕は既存の899/959パニガーレにかなりの好感を持っていた。もっともその背景には、サーキット指向が強すぎる近年V2/V4リッタースーパーバイクに、かなりの難しさを感じていたという事情があって、排気量を縮小すると同時に足まわりを柔軟な特性とした既存のスーパーミッドは、兄貴分とは方向性が異なる、親しみやすいキャラクターだったのである。では新世代のスーパーミッドはどうかと言うと、走り始めてしばらくは、結構スパルタンになっちゃったなと思った。でもその印象は、リアの車高が高くなり、ライディングポジションがスパルタンになったことによる誤解で、パニガーレV2は既存のスーパーミッドと同じく、兄貴分よりスポーツライディングが楽しみやすい特性を備えていた。
いや、その表現は正しいようで正しくないのか。多種多様な電子制御の洗練が進んだパニガーレV2は、既存のスーパーミッド以上に、思い切ってコーナーに進入し、思い切って車体をバンクさせ、思い切ってスロットルを全開にできるのだから。つまりパニガーレV2は、先代よりも無理、と言うか、融通が利き、だからこそ乗り手はいろいろなことにチャレンジしたくなるのだ。そしてそういう姿勢で走ると、3種のすべてに利用価値があるライディングモード、作動感が絶妙なクイックシフター、吸排気系の刷新で滑らかさが増したエンジン、前後左右への体重移動の行いやすくなったシートなどが、ありがたく思えてくる。いずれにしても、すべての改善がスポーツライディングの爽快感に直結していることに、僕はこのバイクにかけるドゥカティの意気込みを感じたである。
続いては現在のドゥカティのフラッグシップである、パニガーレV4との違いを紹介しよう。まず読者の皆様に頭に入れて欲しいのは、2台の最高出力と装備重量。V2:155ps/10750rpm・200kg、V4:214ps/13000rpm・198kgという数値を知れば、V4が圧倒的な戦闘力を備えているかが理解できるだろう。事実、ここぞという場面でアクセルをワイドオープンしたときの速さは、V4の圧勝である。とはいえ、ハンドリングの軽さ、コーナリング中の自由度の高さなら、V2はV4を上回る資質を備えていると僕は思った。などと書くと、車重が同等なのにどうして?と言う人がいそうだが、エンジン幅が狭いだけではなく、クランク/カムシャフトが発生するジャイロ効果が少ないV2は、状況に応じて車体の向きを変えやすい。
それに加えて、排気量が大きすぎないV2はエンジンのオイシイ領域を使いやすいから、リアタイヤから伝わるトラクションも、V4より感じやすいのである。もちろんこのあたりの印象は、乗り手の技量や走る場面で変わってくるのだけれど、マシンに乗せてもらうのではなく、自分の意思で操っている感が得やすいのは、やっぱりV2の方だろう。
試乗後にふと思ったのは、ドゥカティは近年のリッタースーパーバイク界の性能競争をリードする立場でありながらも、一般的なライダーにとっての敷居がどんどん高くなる近年のリッタースーパーバイクに疑問を持っているんじゃないか、ということである。パニガーレV2はその疑問に対するひとつの回答と言うべきモデルで、誰もが気軽に楽しめるわけではないけれど、敷居はパニガーレV4や既存の1199/1299パニガーレよりずっと低い。ちなみに僕自身は今回の試乗を通して、一般的なライダーが本当の意味でスポーツライディングを満喫できるのは、排気量が1000cc以下で、最高出力は150ps前後なのかもしれない、と感じたのだった。
パニガーレV2の詳細写真
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