VIRGIN DUCATI | ドゥカティ スクランブラーアイコン 試乗インプレッション

スクランブラーアイコンの画像
DUCATI Scrambler Icon

ドゥカティ スクランブラーアイコン

  • 掲載日/2015年07月10日【試乗インプレッション】
  • 取材協力/Ducati Japan、フォレスト榛名  取材・文/友野 龍二  写真/VIRGIN DUCATI.com 編集部

1962年に誕生し、アメリカとヨーロッパで一世を風靡したスクランブラー
生産終了から40年近くが経過した今、再びその伝説が甦る

1950年代、アメリカでは砂地や荒地を走るスクランブルレースが盛んに行われていた。とはいえ、オフロードバイクはまだ存在せず、オンロードバイクのハンドル、タイヤ、マフラーなどを変更した車両を用いるのが主流であった。

そんなカスタムが一般でも流行していた時代に、バイカーたちの好みを反映するモデルをアメリカのドゥカティディーラーから要請され、ドゥカティは“イタリア生まれのアメリカンバイク”であるスクランブラーを誕生させたのだ。それは、鮮やかなカラーリングとクロームのコントラストが美しいティアードロップ型の燃料タンクによる象徴的な丸いライン(デザイン)と、レースでもそのまま使えてしまうほど高性能なフレーム(実用性)を兼ね備えていた。瞬く間に人気となったスクランブラーは、その後にはヨーロッパでも販売され、大成功を収める。916やモンスター900と同じく、ドゥカティにとってマイルストーンとなる記念すべきモデルである。

しかし、1960年代後半になるとオフロード走行に特化したモデルが姿を現し始めた。それに伴って、レースは起伏の多い過酷なコースへと変化を遂げ、スクランブルレースはモトクロスレースへとその名称を変えていく。そんな時代の流れに押し出されるようにして、1975年の生産を最後にスクランブラーも静かに歴史の幕を閉じたのである。

スクランブラーアイコンの特徴

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モデルチェンジを重ねてスクランブラーの生産が続いていたら
このように進化を遂げていただろう、という想像を見事に具現化

『ポスト・ヘリテージ』デザインと呼ばれる手法によって、伝統を復活させながらも現代の最新装備を備えて、新生ドゥカティ スクランブラーは登場した。そのディテールは現代のドゥカティであることを心がけつつも、ティアードロップ型の燃料タンク、BORN FREE 1962と刻まれたフィラーキャップ、当時のヘッドライトスイッチを連想させるメインキー、シート下の特徴的なモールディングなど、随所にオリジナルモデルのスタイルを踏襲している。ヘッドライト右寄りに配置された円形ユニットのメーターは古風な形状ながら、表示部はすべて液晶デジタルとなっており、タコメーター、オドメーター、外気温、時計などを表示する。また、ヘッドライトリム内部を取り巻くようにビルトインされたLEDサイド・ライトガイドや、ソフトな拡散光を発する面発光タイプのLEDテールライトといった近代的なパーツ群も自然な調和を見せる。

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今回登場したスクランブラーには4つのバージョンが存在する。正常進化を続けていたら? という想像に最も近いイエローとレッドの『アイコン』を筆頭に、ストリートから郊外のラフロードまで違和感なく溶け込むワイルドグリーンの『アーバン・エンデューロ』(ヘッドライト・グリル、ハンドルバーのクロス・ブレース、ハイ・フロントフェンダー、大型フロントフォーク・プロテクション、リブシート、スポークホイールを装備)、フラット・トラック・レースをイメージしたディープブラックの『フル・スロットル』(イエローのインサートを組み合わせたシート、テルミニョーニ製エグゾースト・システム、ロー・ハンドルバー、ショート・フロントフェンダーを装備)、ディテールにこだわる1970年代スタイルでビートニク・イエローの『クラシック』(アルミニウムフロント&リアフェンダー、ヴィンテージシート、スポークホイールを装備)だ。

この4つとドゥカティ・パフォーマンス製の幅広いオプションパーツ、そして豊富なアパレルを組み合わせることにより、カスタマイズは無限に広がる。そもそもスクランブラーとは『to scramble』(混ぜ合わせる、混合する)を語源として命名されたバイクである。その名の通り、ライダーのさまざまなニーズや要望を満たし、自由な世界観を表現できるのだ。

スクランブラーアイコンの試乗インプレッション

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空冷エンジンがもたらす軽さと路面を問わないタイヤ
リラックスしたポジションにより、シーンを問わず楽しめる

“可愛いくて、カッコいい!”――ちょっと矛盾しているが、これがドゥカティ スクランブラーに抱いた第一印象であった。初代を彷彿させるティアードロップ型の燃料タンクを中心とした懐古的な美しさと、倒立フロントフォーク&リアのモノショック、そしてABS付きのブレンボ製ブレーキなどの最新アイテムとの融合は、ともすればアンバランス感を露呈してしまいそうなパッケージではあるが、これが実に自然であり、新鮮に映ったのだ。これだけで、新生スクランブラーはファッション的なレトロバイクではないことが容易に想像できた。まだ走り出す前なのに、このアメリカンな装いのイタリアンバイクにワクワクとした感情があふれてくる。では実際に各部を説明しながらインプレッションをお届けしよう。

まずシートにまたがり、車体を引き起こしてみると、790mmのシート高と乾燥重量170kgの車体は苦もなく直立状態となる。メインキーを捻ると、小ぶりなメーターに液晶表示が浮かび上がり、トリガーキャッチ式のスターターボタンを押せば、排気量803ccの空冷L型2気筒2バルブエンジンは優しく目を覚ます。発進時のタイミングが掴みやすいケーブル式の湿式多板APTCクラッチは操作も軽いため、市街地でのストップ&ゴーが苦にならない。さらにバックトルクリミッター機能も備わるので、シフトダウンを誤った場合でもリアタイヤのホッピングやロックを防いでくれる。

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このエンジンは、モンスター796(以下796)と同一のボア88mm、ストローク66mmではあるものの、スクランブラーのキャラクターに合わせてスムーズな加速を得られるよう、バルブオーバーラップ角を41°から11°へと変更したカムシャフトが組み込まれている。この違いは走り始めてすぐに感じ取れたが、けっしてダルな特性ではない。スペック上は最高出力72hp/8,250rpm、最大トルク6.8kgm/5,750rpmと、796に対して15hpほど引き下げられている。しかし、低速ギアでスロットルを大きく開ければ、ツインエンジン独特のパルス感を伴って路面を蹴飛ばしていく。リラックスできるライディングポジションとの関係もあり、不用意に開ければ上体を後ろへ持っていかれる元気さがある。

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コーナリングも個性的であり、近年では珍しい18インチのフロントタイヤが優しい味付けを生み出している。フロントタイヤを軸にしてグイグイと曲がっていく17インチとは違い、ニュートラルそのもの。車体を傾けたときの舵角の付き方が穏やかであり、ライダーの気持ちを追い越して勝手に曲がろうなどとはせず、あくまでもライダー主導の受身的な姿勢を貫き通す。ホイールはフロント3.00×18インチ、リア5.5×17インチ。そこへスクランブラー専用に開発されたピレリ製エンデューロタイプタイヤ(MT60 RS)のフロント110/80R18、リア180/55R17を履く。ブロックパターンでありながら、オンロードでも高いグリップ力を発揮するため、そのコーナリング性能は侮れないものがある。

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ダブルアッパービーム式の鋼管トレリスフレームとカヤバ製の前後サスペンション(フロント41mm倒立フォーク、リアはスプリングプリロード調整機能付きモノショック)を備える車体は、高い荷重を難なく受け止める。前後とも150mmと余裕あるホイールトラベルだが、長い足にありがちなフワフワ感はなく、程よい硬さのシートも助けとなり、リアサスペンションの動きやタイヤのグリップ感を掴みやすい。フロントホイールトラベル120mmの796に対して30mmもの余裕がある。これはオフロード走行時のマージンと捉えるべきだろう。快適なライディングポジションと軽い車重、低い重心、そしてブロックパターンのタイヤとなれば、オフロードに足が向くのもある意味では必然かもしれない。そこで頼もしい味方になってくれるのがボッシュ製ABSの備わるブレンボ製ブレーキシステムだ。オンロードでは出番の少ないABSも、オフロードでは頻繁に作動し、その高い効果を発揮してくれた。

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とはいえ、積極的に攻めるとなると、150mmのホイールトラベルでもストローク不足となって底付きを起こすし、ワイドで迫力あるリアタイヤは接地面積が広いがゆえに接地圧が不足して、横方向へのスライドが止まりづらい。また、これは想像だが、50mm径のシングルスロットルボディ(796は45mm×2基)は、スロットルバタフライが負圧の影響を受けて抵抗となる領域があるのか、低速域でのアクセル開度と燃焼の相対関係にほんのわずかだが違和感を覚えるケースがあった。

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気づかないくらい些細な部分もあえて記載したが、スクランブラーの魅力がスポイルされるようなものではなく、最初に感じたワクワクとした楽しい気持ちは変わらなかったことを付け加えておく。今回は、2週間もの時間をともに過ごしつつ、このバイクの扱い方の処方箋をつくろうと試みたが、良い意味で無駄な努力であった。メーカーのプロモーション活動を見てもわかるように、走り方も使い方も接し方も自由であり、すべては“ライダーの思うがままに!”――それがスクランブラーというバイクの本質なのだ。

プロフェッショナル・コメント

待ちに待ったスクランブラーは
誰でも気軽に楽しめるバイク

ワールドプレミアとなったWDW 2014で初めて見てから、乗るのが待ち遠しくてしかたがなかったドゥカティ スクランブラーが日本でも発売されました。誰よりも早く乗ってみたかったので、試乗車にナンバープレートをつけてすぐに1時間ほど走り回ってしまったくらいです。

予想通り、遊び心満載のスタイルと扱いやすいコンパクトな車体がマッチしていて、乗って楽しくなるモデルでした。速く走りたい方や、上手に乗りたいという方には少々、もの足りなさもあるかもしれませんが、高回転までしっかりと回るエンジンと、必要にして十分なサスペンションを備えていますので、どなたでも楽しめると思います。ちょっとやんちゃでジェントルな大人から、ライフスタイルに初めてバイクを取り込む若い人、好奇心旺盛でお洒落な女性まで、自分らしくバイクで遊びたいライダーにピッタリなバイクですよ。(ドゥカティ高崎 ストアマネージャー 秋山 亮さん)

取材協力
住所/群馬県高崎市浜尻町462-1
Tel/027-365-5277
営業/10:00-19:00
定休/月曜

スクランブラーアイコンの詳細写真

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クラシックな丸型ヘッドライトにも『ポスト・ヘリテージ』デザインが生かされる。リムを取り巻くように配置されたLEDサイド・ライトガイドや、ドゥカティロゴをあしらった中央のヘッドライトバルブスクリーンなど、小ぶりなレンズの中にも斬新な手法が用いられている。
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重要なスタイル要素となる13.5リットル容量(リザーブ3リットル)のティアードロップ型スチール燃料タンク。BORN FREE 1962と刻印されたフィラーキャップは、1970年代に流行したクロージャーシステムを模したもの。アルミニウムのサイドパネルは交換可能。
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前後左右の体重移動を容易にする凹凸の少ないロングシートは、厚いながらも適度な硬さがあるため、リアサスペンションの動きやタイヤの接地状況を掴みやすい。モデルごとに表皮の材質、カラー、デザインが異なるが、いずれもシート高は790mmに抑えられている。
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ソフトな拡散光を発する面発光タイプのLEDテールライトが特徴的なリアセクション。ハザードランプはウインカースイッチを左に3秒間押し続けると作動する。『アイコン』と『アーバン・エンデューロ』は小ぶりなリアフェンダー、『クラシック』はアルミのロングフェンダー、『フル・スロットル』はフェンダーレス仕様となる。
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『アイコン』『アーバン・エンデューロ』『フル・スロットル』のナンバープレートは、ディアベルやモンスター1200と同様にスイングアームから伸びるマッドガードに装着される。『クラシック』のみ、アルミニウムのロングフェンダー先端部への装着となるが、ナンバー灯はいずれもLED。
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現行ドゥカティで唯一の空冷となるL型2気筒2バルブ803ccエンジン。モンスター796と同じボア88mm、ストローク66mmだが、スムーズな加速を得られるよう、バルブオーバーラップ角を11°へと変更。剥き出しのエンジンは外観も美しく、クラッチ、オルタネータ、タイミングベルトのアルミカバーにはデザイン加工が施される。
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空冷エンジンの放熱性を高めるために燃料タンク下の前面部に縦型オイルクーラーを装備。冷却効率の高い場所に取り付けられたオイルクーラーは、プラスチックのカバーで覆われており、デザイン性とプロテクション性を両立させている。
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『アイコン』『アーバン・エンデューロ』『クラシック』に装備される2in1タイプのステンレスエグゾースト・システムにはアルミのヒートガードが装着される。斜めにカットされたショートサイレンサーはイタリア本国仕様と同一。『フル・スロットル』には公道走行の認可を取得したテルミニョーニ製の2本出しサイレンサーが奢られる。
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フロントサスペンションにはカヤバ製の41mm倒立フォーク、ブレンボ製4ピストンモノブロック・ラジアルマウントキャリパーとABS付き330mmシングルディスクの信頼できる組み合せ。『アイコン』『フル・スロットル』が10本スポークのキャストホイール、『アーバン・エンデューロ』『クラシック』がスポークホイールとなる。
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ダイカストアルミニウムのスイングアームが悪路においても高い剛性を確保し、カヤバ製のプリロードアジャスタブル・モノショックが150mmの余裕あるホイールトラベルを支える。タイヤは専用開発のピレリ製MT60 RS(フロント110/80R18、リア180/55R17)を履き、オンロードのみならずオフロード走行をも許容する。
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近年のモデルとしては大きな部類となる小物入れを有している。車載工具は干渉を受けない位置のシート裏にビルトインされているため、防寒用のウインドブレーカーなどを収納するのにちょうど良いサイズで使いやすい。
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シート下には便利なUSBソケットも装備する。電子機器の所有&使用が日常となった時代だからこそ、電源の確保ができるのはありがたい。こういった部分も、単なる懐古主義のモデルでなく『ポスト・ヘリテージ』デザインによって現代的な解釈がなされている証拠。
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ヘッドライトのやや右寄りに配置された円形ユニットのメーターも古風な形状ながら、表示部はすべてデジタルとなっており、タコメーター、オドメーター、外気温、時計などが液晶表示される。ヘッドライトユニット上に差し込むメインキーの形状は、当時のモデルのライトスイッチを連想させる。
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左右のグリップ両サイドに配置されるスイッチ類はオーソドックスな配列のため、操作に戸惑うことはない。電子式燃料噴射装置を備えるものの、50mm径スロットルボディをコントロールするアクセルワイヤーはメーター上部を通過するよう余裕を持たせ、キャブレター時代の面影を連想させる配慮がなされている。

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