VIRGIN DUCATI | ドゥカティ ストリートファイターS 試乗インプレッション

ストリートファイターSの画像
DUCATI Streetfighter S

ドゥカティ ストリートファイターS

  • 掲載日/2011年01月05日【試乗インプレッション】
  • 取材協力/Ducati Japan  取材・文・写真/TOMO、小松男、山下剛

スーパーバイク直系の血脈を持つ
生粋の過激なストリート仕様

2009年にデビューを果たしたストリートファイターは、水冷Lツインを搭載するネイキッドバイクだ。もちろんベースとなっているのはドゥカティ・スーパーバイクの1098だ。しかしただカウルを取り去っただけではなく、キャスター角を24.5°から25.8°へ、スイングアームを35mm延長し、その結果としてホイールベースは1430mmから1475mmと45mmも長くなっている。

さて、その乗り味はいったいどんなものに仕上がっているのか。ここではあくまで一般的なライダーの視点からのストリートファイターのファーストインプレッションを…という趣旨で、DUCATI BIKES編集スタッフたちがストリートファイターだけではなく1198とMONSTER 1100 Sという3車種を同時に試乗。その上でストリートファイターの素性に迫るべく、本音で語り合ったのだ。

ストリートファイターSの特徴

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ライダーを異世界へと導く
ライフスタイルツール

多くのライダーをひとめ惚れさせるスタイリングは、ドゥカティのデザイナーとエンジニアのパッションを形にしたものだ。そのルーツは車名が表すとおり、1970年代終盤から80年代にかけて北ヨーロッパの裏道で起こった“ストリートファイター”スタイルである。普通のバイクに先鋭化カスタムを施してスポーツバイクを創り上げるのではなく、スーパーバイクのフェアリングを取り去って、ハイパフォーマンスなネイキッドスタイルにする文化が発端だ。

マテリアルとなったのは、ドゥカティのプライドでありアイデンティティであるスーパーバイク、1098である。だからといってもちろん、カウルを剥ぎ取っただけの単純な仕事ではない。カウル内に収納されていた各補機類を、ルックスを妨げることなくデザインするのは当たり前のことだが、キャスター角を24.5度から25.8度と11.1度、スイングアームを35mm延長、その結果ホイールベースは1430mmから1475mmへと45mmも延長して、走りの特性をスーパーバイクから“スーパーストリートバイク”へと変貌させるとともに、クールなスタイリングも実現している。

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ドゥカティはストリートファイターのプレスリリースに、こんな一文を記している。

『ドゥカティのモーターサイクルは単なる移動手段ではない、ライダーを異世界へと導くライフスタイルツールである。さらには自身のキャラクターの延長であり、究極の自己表現でもある』

ストリートファイターのルックスを見てパッションを感じるとすれば、それはストリートファイターを見つめているライダー自身であり、その投影である。ドゥカティはそう言っている。つまり、ストリートファイターは、ライダーの感性に情熱があるかどうかを試すリトマス試験紙の役割も果たすのである。

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Sバージョンの前後サスにはオーリンズ、前後ホイールにはマルケジーニ製鍛造アルミホイール、カムベルトカバーとFフェンダーのカーボン化、DTC(トラクションコントロール)とDDA(走行データ解析)を備え、価格は219万円。これらの装備が簡素化されるノーマルは179万円となっている。

ストリートファイターSの試乗インプレッション

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SFは乗りやすい、それとも乗りにくい?

山下剛(以下山下)●我々3人は御殿場のワインディングとその往復でそれぞれストリートファイター(以下SF)とM1100S、1198の3車種に乗ってみた。それぞれの印象を語ってみますか。じゃあ、まずはSFに乗った初印象から話してみましょうか。

小松男(以下小松)●思っていたのと曲がる感じが違ってた。もっとバコンバコンと曲がってオーバーステア気味になると思ってたけど、思ったよりもフロントが外へ逃げていっちゃう。

山下●俺の印象もそんな感じだった。端的に言うと「曲がんね~」。

小松●曲がらないわけではないんだけど、曲がり方がわかんないって感じ。

山下●そうそう。思ったよりもヒラヒラと走るバイクじゃないんだね。高速道路のレーンチェンジでも、ハンドルとステップに荷重かければクイッといけるかと思っていたら、そうでもなくて、意外とドッシリしているというか。

TOMO●元気なんだけど、スパスパって走る感じでもなくて、ドカンと行くバイクかな。

小松●速く走ろうとかガンバって走ろうとすると曲がり方がわからない場面が多くなってくるんだけど、タラ~ンと流して走るようなペースだとすごく気持ちよく走れますよ。とくに緩やかなコーナーが連続するワインディングの上りがそうでしたね。エンジンはスパルタンで、いい印象でした。

山下●というと?

小松●1198と比べると、SFのエンジンはトルク感があるというか、アクセルを開けたときのツキの良さがありましたよ。どちらかといえば、1198がモーターみたいにビューンと回るのに対して、SFはダカダカダカッていう感じ。

山下●ツインらしさが強調されたエンジンってこと?

小松●だいたいそんな感じ。

TOMO●私もそう感じたんだけど、そのせいで却ってギクシャクしちゃう場面もあったなあ。うまくスピードと合わせられるポイントがなかなか見つからない。そのへんは1198が一番わかりやすかったな。M1100Sはそれほど神経質にならなくても乗れちゃう。

山下●あー、それはわかる。1198はコーナリングが愉しかった。

TOMO●でも1198は勘違いをしてしまいそうな気もした。

小松●「私、乗れてる!」みたいな勘違いってこと?

TOMO●そう。乗りやすいし、速くカッコよく走るための乗り方もわかったような気になるんだけど、そう思っちゃうと「オマエなんかまだまだだよ」って言われて痛い目を見そう。

小松●M1100Sにもそういう面はあるけどね。

TOMO●うん。M1100Sだともうちょっと低いところで扱えてる感じにさせてくれるけど、1198はもうちょっと上のところで乗れてるって思わせてくれちゃう。

小松●なるほどね。じゃあSFは?

TOMO●そういう気にもさせてくれない。会話が成り立たないというか、言語が違うというか(笑)。

小松●ダメなものはダメと言ってくれる。それはある意味、SFのやさしさなんですよ。

山下●めんどくさいヤツだな(笑)。俺はもっとわかりやすいやさしさが欲しいよ。

TOMO●甘えてばかりじゃ大人になれませんよ(笑)。

小松●そこがSFのおもしろいところなんじゃないですか。そうして走り方を少しずつ探っていって、自分のものにしていく。

TOMO●その先にはすばらしい世界が待っているのかな。

小松●それはもう至高の世界ですよ、きっと。

山下●要はツンデレってこと?

小松●うーん、違うと思うけど、その言い方がわかりやすいならそれでもいいです(笑)。

山下●ふーむ、SFのツンデレ的印象はハイパーモタード(以下HM)でも感じられたんだよね。HMは鍵のかかったドアをどう開けようかって感じだったけど、SFはドアノブのないドアに出会った気分だった。

小松●それは言い過ぎでしょ(笑)。うちのウェブチームのメンバーは、SFは乗りやすいバイクだって言ってたし、ドゥカティのディーラーマンにもそういう意見は多いですからね。

山下●同じバイクに乗っているのに、「乗りやすい」という意見と「乗りにくい」という意見に分かれるのはどうしてだろう。

TOMO●賛否両論、まっぷたつ。そういう意見が出るってことは「いいバイク」である証拠でもあるとは思うんだけど。

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楽してカッコよくなんてなれない

小松●推測ですけどね、たぶん「乗りやすい」と感じた人たちは、SFに対してとても素直に接した人だと思うんですよ。ドゥカティってやっぱり敷居が高いじゃないですか。外車だし、すごく速いバイクを造るメーカーだし、ビギナーや腕に自信がない人にはとても扱えるシロモノじゃないというイメージがありますよね。

山下●たしかにそういう一面はあるね。

小松●そういうイメージを持ちながらSFに乗ってみたら、そんなことはなくて、一般ライダーでもそのスゴさ、おもしろさを感じられる。こんなカッコいいバイクを走らせることができる、という喜びを素直に感じた、と。

山下●反対に、俺たちのように「乗りにくい」と感じたのは、そういうドゥカティを「乗りこなしてやろう」とか「乗りこなしてみたい」というスケベ心があったから?

TOMO●私はスケベじゃない!

小松●言葉が悪いですよ。スケベ心というよりも欲望、積極的で前向きな気持ち、といったところじゃないですか。

山下●なるほど。でも乗りこなすほどのテクニックがないから打ちのめされる。で、「乗りにくい」と短絡的な結論を出してしまう、と。

小松●でも僕たちだって打ちのめされっぱなしじゃないじゃないですか。TOMOちゃんはさっき「会話が成り立たない」と言ってたけど、たとえば母国語以外の言葉を知らない外国人同士だって、ニュアンスを伝えることはできるわけですよ。ひとつひとつ探りながらモノにしていく、その過程は充実したものになるし、手応えがあったときの喜びは素晴らしいんですよ。

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TOMO●エンジンの話をしたときに、トルク感があるからギクシャクして難しいと言ったけど、とっかかりはそのへんにありそうな気がする。

小松●ダカダカダカッて回るし、それがツインらしさでもあるから、その鼓動を愉しむだけでもいいのかもしれないけどね。

TOMO●でも、そこを上手にコントロールすれば、SFの走り方が変わってくる。

小松●ちょっと雑に扱うとギクシャクするということは、繊細なアクセルワークをすればSFはカッコよく走ってくれる。そこがおもしろいんですよ。バイクの愉しさの原点じゃないですか。できないことをひとつずつ達成していくのは快感です。

山下●マゾだねぇ。

小松●この人はまたそういうこと言う(笑)。楽なことばっかりしてたら、見つからないものもあるんですよ。だいたい、苦労しながら目標を達成することとマゾとは意味が違います。

山下●確かにそうだ。カッコいい人はカッコいいからカッコいいのではなくて、カッコよくいようと常に心がけていて、人知れず苦労しているからカッコいいんだしね。

TOMO●楽なものがいいんだったら、わざわざタイトなスカートを着ようとも思わないし、ハイヒールを履こうとも思わない。男の人はわからないだろうけど、ハイヒールを一日中ずっと履いていると足が痛くなってくるし、とても疲れるものなのよね。

小松●でもカッコいい女の人はそんな愚痴も文句も言わないし、素振りも見せない。

山下●なるほど。SFを乗りこなそうと思ったら、ライテク云々もそうだろうけど、それよりも前にそうした「カッコよくバイクに乗りたい」という乗り手の姿勢というか、そうした心構えが重要ってわけね。ファッションとかスタイルと言い換えてもいい。

TOMO●バイクって基本的にはそういう乗り物よね。そう考えると、SFにはシンプルな愉しさを最新ファッションで包んだバイクといえるのかな。

小松●楽してカッコよくはなれないわけですよ。それが通用するなら、誰もハイヒールも履かずミニスカートも着ず、みんながジャージで街に出かけるようになる。

山下●体育祭かっつーの(笑)。そんな色気のない街には誰も行かない。

TOMO●繊細なアクセルワークとかブレーキングとか、SFが気持ちよく走るためのライディングテクニックを覚えていけば、カッコいい走りが自然とできるようになってくる?

山下●苦労するなあ。

小松●楽したいんならスクーターに乗ってればいいの!

山下●ま、そりゃそうだ。そうやって考えると、ストイックなバイクを創るドゥカティのラインナップの中でも、もっともストイックなモデルがSFということもできるね。

TOMO●ストイックな分だけ、カッコよさもより際立っている。

小松●甘くないし、ヌルくもなければユルくもない。でもスキルフルなライダーのためだけのバイクでもない。

山下●その世界に誰でも入れるほど間口は広いけど、奥は狭まっていてそこに行くには相応の苦労がある。その世界の中心には最高の愉悦がある、と。

小松●SFはいかにもドゥカティらしいネイキッドといえるでしょうね。

ストリートファイターSの詳細写真

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Sバージョンのフロントフォークはオーリンズ製フルアジャスタブルで、インナーチューブには硬度を高めるTiN(チタン)コート処理が施される。その後ろにはラジエーターが2段重ねられ、上段はクーラントを、下段はオイルを冷却する。つまりオイルクーラーも水冷式なのだ。
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左側ハンドルスイッチにはパッシング&ハイビーム、ウィンカー、ホーン、ふたつのメーター操作スイッチが配される。各スイッチの配置はバランスがよく、またクリック感も確かなもので操作性は良好。
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右側ハンドルスイッチには、セルスターターとキルスイッチが配される。赤い凸部がスライド式キルスイッチ、黒く丸い部分がセルスイッチ。スライド式のキルスイッチをオンにすると、セルスイッチが隠れて押せなくなるユニークな仕組み。
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ハンドル手前に装着されるクロスマウントのステアリングダンパー。
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メーターには速度、エンジン回転数の他、水温計や気温計、温度計、トリップやオドなどが機能的に表示され、左ハンドルスイッチで操作する。パネルは液晶でバックライトは白、明るさを3段階に調節可能。前傾時でも見やすい配置とデザインだ。
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クーラントとオイルを冷却するラジエーターはヨーロッパナンバーワンのシェアを持つKTM製。
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Sバージョンに装着されるオーリンズ製フルアジャスタブルモノショックのリアサスペンション。これも定石通り。
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ここも定番、ブレンボ製4ピストンラジアルマウントキャリパー。もちろん高剛性を持つモノブロックだ。そのキャリパーの右に接続されているプラグはホイール回転速度を検知するもので、DTCを作動させるために必要なセンサーだ。もちろん、後輪にも同様のセンサーが装着されている。Sにのみ装着される。
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クラッチカバーは日本の騒音規制に対応するための専用パーツ。エンジンでは、クランクケースが見直され、剛性を高めるとともに1098よりも3kgもの軽量化を達成している。これも合わせて、Sバージョンは無印よりも乾燥重量で2kg軽い。
試乗ライダー プロフィール
小松 男
本誌創刊から関わる編集スタッフ、現在はDUCATI BIKES編集長。ヒザに空き缶つけて走っていた小僧時代を経て、近頃ではサーキットに走りの愉しみを見つけた。M1100Sを購入し、初のドゥカティに心躍る毎日を過ごしている。
TOMO
モデルもこなすフリーライター。愛車はTDM850とXR250。ジムカーナ経験もあり、長身を生かしたライディングで男性陣を振り払う。先日、ナガヤマのスポクラでレースデビューを飾った。
山下剛
今号から本誌編集部に移籍してきた元クラブマン編集者。ドゥカティに関する知識はまだまだ乏しく、「ただいま鋭意勉強中!」とは本人の弁。目下のところ、興味があるのはGT1000のスクランブラー化。

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