
パニガーレV4Sのライディングポジションはスーパースポーツの中ではごく平均的なものだ。エンジン幅が2気筒よりも少し広がったぶん、むしろ下半身はホールドしやすく、極端な前傾姿勢は強いられない。走り出すと2気筒のようなパンチのある爆発力が伝わってこないためむしろ扱いやすく、街乗りでも持て余すことはないだろう。
とはいえ、このマシンの真髄はもちろんそこではない。13,000rpmで最高出力を発揮する、その回転数自体はライバル勢と同等か、もしくは低いくらいだが、そこに至る時のタコメーターの上昇スピードは明らかに速く、レブリミッターが作動する14,500rpmまで瞬時に回り切る。その間の加速力は暴力的と言ってもよく、ストレートでもまったく体が休まることはない。気を抜いているとシフトアップの度に体が後方へ持っていかれそうになるため、走行中は終始筋肉が緊張している状態が続くのだ。
体に負荷が掛かるのはコーナリングも同様だ。ブレーキ、サスペンション、タイヤといったパーツ個々のポテンシャルの高さに電子制御の効果が加わり、車体のスタビリティは驚異的に向上している。つまり、より深いポイントまでブレーキを残し、より深く車体をバンクさせ、より早いタイミングでスロットルを開けられるようになったため、それを本当に引き出そうとすればライダーもまた減速Gに耐え、バンク角を稼ぐために体を大きくオフセットし、それでも足りないぶんは頭を引き込むようにして走る、今時のモトGPライダー的なライディングスタイルが求められるからだ。
のんびりと走ることを許容しながらも、そのポテンシャルを発揮させるにはライダーのスキルもフィジカルも進化させなければいけない。パニガーレV4Sとはそういうマシンである。